こんにちは。
皆さまは「花の街」という曲をご存知ですか?
合唱曲として、昔歌ったことのある方もおられるかもしれません。
私も小学生の頃、音楽の授業で歌った思い出があります。
しかし私には先程の思い出とは別に、この「花の街」が今も色濃く残っています。
なぜかと言いますと、この「花の街」という曲は、あるトランペット奏者によって毎年1月17日に神戸の街で演奏される曲だからです。
新元号の「平成」にも慣れてきたある年の1月、トランペット奏者の男性は神戸市内で行われた演奏会を終え、離れた自宅へとやっと帰りつきました。
眠り、そして次の日の朝方、5時46分。大きな音とともに神戸が、関西が揺れました。
阪神淡路大震災です。
数時間前に自分が演奏会を行い、ひな壇の上でライトに照らされ拍手を浴びていた、あの神戸が、ブラウン管の向こうでは見る影もない。街が変わってしまっていたそうです。
1995年の1月17日の事でした。
このトランペット奏者の男性が4年後、追悼そして、未来にこの出来事を忘れずに伝えるため始めたのが、自分の生きがい、そして気持ちを伝える手段であったトランペットでの「花の街」の演奏でした。
「花の街」と言う曲は、第二次世界大戦後の復興の為に生まれた曲です。
復興のため、そして未来へ繋げる為。今年の1月17日にもこの男性は「花の街」と、東日本大震災復興の為に生まれた曲「花は咲く」を、神戸の街で演奏をされていました。
私は、「花の街」のメロディを聞くと、この男性のトランペットの音色とともに、阪神淡路大震災という出来事が頭に浮かびます。
私は1993年の5月生まれですので、あの朝のことは記憶にありません。しかし、家族に連れられていった被災後の神戸の街のことや、当時のニュース映像や被災された方と話した記憶があります。
去年の1月17日の朝。毎年追悼の式典を行なっている東遊園地とメリケンパークに行ってきました。
その一角には、寄せ書きをするブースが出来ており、読んでいると「あの時助けられなくてごめんね」「なぜわたしだけ」、またご存命なら今のわたしと同い年の方に向けてのメッセージなどたくさんの気持ちが言葉になって並んでいました。
今、自分がここにいることが当たり前ではないということ。そして、誰かが迎えたくても迎えられなかった2020年1月17日をいま、自分は迎えているということを改めて強く感じました。
過去に感じた事があったのに、頭では分かっていてもどこか埃をかぶっていた感情でした。
東日本大震災の時もたしかに感じたはず。
2011年3月11日わたしは高校生で、京都の学校に通っていました。合奏をしている時、チューバの水を捨てようと立ち、自席に戻る時立ちくらみがしました。そのすぐ後、部員全員の持ってきてはいけないはずの携帯電話の緊急アラームが鳴り響きました。
怒られはしませんでしたが。
帰り京都駅中央改札口では号外が配られ、見たかったバラエティ番組も中止。右側を赤と黄色の線でなぞられた日本列島の地図がテレビにずっと表示されていました。
自分の話が続きますが実はその年、2011年のお正月。私は、北日本のマーチングをしている学校と関西の学校の合同チームでアメリカの年始に行われるパレードに出演したばかりでした。
アメリカはもちろん北海道、東北に沢山大切な仲間ができました。
その僅か数ヶ月後の出来事です。
恥ずかしい話ですが、その近年に発生した、四川やスマトラ、新潟などの地震では知り合いがいない為「大変だ」としか思いませんでした。
知り合いの安否がわからない。このような不安を生まれて初めて感じました。
無事メンバーは皆、元気でいてくれていました。
しかし当然予定されていた定期演奏会やこのパレードの修了式などは行えなかったと聞いています。
阪神淡路大震災の時、JOKERSでも安否確認に一ヶ月かかったと隊長が話してくれました。いま、同じことが起きれば仕事なんか手につかなさそうです。大切なメンバーと連絡が取れない。考えたくないです。しかし隊長や数名のメンバーはその震災をJOKERSで経験をした、数少ないメンバーです。
いつもひょうひょうとしている隊長ですが、その時の言葉だけはリアルに深く聞こえました。その時だけ、って言ったら怒られますね。
私にとっては「花の街」ですが、当時のことを強く思い出す音楽があるはずです。震災だけでなくもちろん楽しい事も。
当時よく聞いていた曲、流れていた曲。その曲のワンフレーズを耳にしただけでもとても懐かしく、その時の気持ちまで蘇ってきます。
音楽の持つ力はすごいですね。
JOKERSでは毎年、必ず「今年の、このメンバーでしか作れないショーを」と話をします。
JOKERSがショーを大切にする理由、毎週のリハーサルを大切にする理由、そしてメンバーを大切にする理由。
かけがえのない、代わりのきかないメンバーだから。
そしてそんな大切なメンバーと共に作る、大切なかけがえのないショーだから。
私たちJOKERSはショーを作るために集まっています。
一人一人に責任があります。
誰が欠けても今年のJOKERSは成り立ちません。
今年、このメンバーがショー作りに参加できた事は、決して当たり前のことではなくとてもとても凄い事です。
去年も、来年もありえない事。
このメンバーだから、できるショー。
このメンバーだから、経験できるシーズン。
いろんなことを乗り越えて、耐えるときは耐えて、
皆で会えるときは最大限に出来ることをして、集まる意味であるショー作りを続けています。
方法を考え、対策をし、捨てる事なく、楽しさを追求し、
シーズンを過ごしてきました。
そのシーズンも後わずか。
皆さまは「You’ll Never Walk Alone」という曲をご存知ですか?
毎年、JOKERSがシーズンの最後に演奏している曲です。
メンバーの人生の大切な節目にも演奏をしています。
私は、この曲を聴くと経験したシーズンを思い出します。練習中、ツアーでの思い出。本番での出来事。そして、メンバーのこと。
今、ともにショーを作っているメンバー、今は遠くにいるメンバー、近くても合えないメンバー。
日曜以外にもよく会っていたメンバー、ソロを外して泣いていたメンバー、オーディションに落ちて悔しがっていたメンバー、競い合ったメンバー。本番前、手と手を合わせたメンバー。
あの年だけのショー。あそこに自分はいたんだなぁ。
思い出になっちゃったけど、参加していたんだなぁ。
そして、今もこの「You’ll Never Walk Alone」をきくことができる。演奏できることがとても嬉しく、当たり前でないと感じます。
特にやはり、今年は。
今年のメンバーは、この大変な時期をJOKERSで経験した数少ないメンバーです。
「オンライン入隊説明会」「オンライン練習見学」で入隊した2020年度ルーキーはめちゃくちゃ特別ですよ!胸を張って下さい。
そして、ルーキーもベッツも、誰ひとりとして、欠けることなくここまできました。
積み下ろしも、ポイント貼りも、点呼も、ストレッチもベーシックも、
コンテ組みも、各パートの練習も、会議室での長い会議も、
コーディネーションも、ランスルーも、そして本番も。
当たり前の事ではありません。
有難い、特別な、今年だけしか無い、
私たちだけの大切なシーズン。大切なショー。
だからこそ、自分たちで終わらせる。
だからこそ、ショーを行う。
JOKERS Drum&BugleCorpsが今年活動した意味である、ショーをする。
いつかこの先、「You’ll Never Walk Alone」のメロディを聞いた時、必ず今年のことを思い出します。
楽しかったなぁ、だけではなくその時の自分に響くはず。
客席で聞いてるのか、フロアで吹いているのか。
ずっと、フロアにいたいな。
今しかできないこと、今しか作れないもの。
今だからやりたいこと。
まだまだあります。
嵐の向こうには、必ず晴れ渡る黄金色の空が広がっている。
顔を上げて、前を向いて、嵐の中を、騒がしく、進んでゆく。
いつか今を懐かしく思う時、きっと笑顔のはず。
Bugle line
木村友譲